国土交通省地方整備局など国出先機関の事務・権限・職員を、ブロック単位の広域連合に移譲する政府の「出先機関事務移譲法案」策定・閣議決定を控え、迅速な出先機関移譲に反対する声が高まっている。
政府が法案骨子をまとめ、法案作成作業が大詰めを迎える中、法案に反対する声も拡大しつつある。現行の出先機関移譲に強い懸念を持つ基礎自治体首長で構成する「地方を守る会」の参加者も、全国で500人に達したほか、既に自民党委員会が23日に反対決議をした。
さらに、国家公務員組合の一つ、日本国家公務員労働組合連合会(略称・国公労連)も25日、議員会館内で出先機関廃止・移譲反対集会を開いた。同集会には、国公労連が支持する共産党以外からも、民主党の沓掛哲男、小泉俊明両衆議院議員も出席し、明確に法案に対し反対を表明。出先機関の原則廃止を掲げる民主党内にも、現行の出先機関移譲に対して根強い反対の声があることを裏付けた。
沓掛議員は、「法案を通したら国は滅ぶ。絶対通してはいけない。このこと(拙速導入阻止)にすべてをかけている」と強い決意を表明した。
また小泉議員も、政府が進める出先機関移譲法案や独立行政法人改革を念頭に「いまの改革は、国が守れない、大改悪。出先機関は移譲ではなくむしろ強化すべき」と政府の対応を強く批判した。
与党である民主党議員がここまで強い反発を組合主催の集会で表明したのには訳がある。
市町村首長からの拙速な導入懸念が相次いでいたほか、これまでに民主党地域主権調査会が行った、早期に出先機関の廃止・事務権限移譲を求める関西広域連合会の知事からのヒアリングで知事発言が、法案絶対反対を決定づけたからだ。
小泉議員は、大規模災害対応について問われた関西連合のある知事が「大規模災害が起きても、十分対応できる。わたしたちはいつでも携帯電話で話せるから大丈夫」と言い切ったことを明らかにした。
また、知事と広域連合トップを兼任していて、広域ブロック内の他県で発生した台風などの災害対応に率先して陣頭指揮が執れるのかとの問いに、別の県知事は、広域連合トップは持ち回りになることを念頭に「知事としてそれはできない」と答えたという。
こうした発言が、沓掛、小泉両議院には「通信手段が遮断された今回の震災でも被災地知事は、県内対応だけで手一杯だった現実を打ち明けている。災害対応は仲良しクラブの話じゃない。早期の出先機関移譲を求める知事は余りにも現場を知らない」と不信感につながった。
結果的に、「災害対応は普段からの組織としての取り組みと情報交換が必要。今、知事同士が仲良しだから対応できるという問題ではなく、災害対応のノウハウと教育を日頃からどう行うかということと、対応するための組織と指示命令系統をどう構築し運用するかということさえ理解していない」という強い批判が、出先機関移譲が進むことへの強い危機感と、法案反対につながる。
一方、全国の基礎自治体首長の3分の1が、拙速な出先機関移譲に懸念を表明しながら、野田政権が出先機関改革を進めるのは、「政権交代時のマニフェスト実現の実績づくりと、消費税引き上げに理解を得る上で、国家公務員の給与引き下げに加え、さまざまな改革を行っていることを強調するため」(与野党議員)との見方が強い。
既に野田佳彦首相は今国会への出先機関移譲法案提出に言及しており、野田政権にとっても引けない状況だ。
そのため、拙速導入に反対する市町村首長や組合の声を背景に法案反対姿勢を鮮明にする自民など野党や、そもそも法案提出前の与党内事前審査で強く反対することが確実な民主党内の動きを含め、今後議論がさらに白熱することだけは確実だ。