トップページ > 活動レポート > 平成24年九州地方集中豪雨災害に関する新聞記事 > 平成24年7月18日 建設通信新聞記事 




2012/7/18(水)
新聞記事
平成24年7月18日 建設通信新聞


地域建設業の役割、再認識
九州北部豪雨・現場ルポ






14日午前、国道57号を熊本県阿蘇市に向けて車を運転中、同市内全域に避難指示を告げるエリアメールが携帯電話に入った。消防車の放水を直接当てられたような豪雨に恐怖を感じながら、徐行運転を続け、熊本県建設業協会阿蘇支部を目指した。窓の外を見ると、山から大量に流れ出る水によって道路は川と化し、泥土や木を流出させている。同日早朝、支部の災害対策本部は、復旧作業に当たっている会員各社の作業者に活動の中止を告げた。

「12日以降、作業員は最前線で徹夜の復旧活動を進めている。使命感を持ち、地域のために活動するがゆえに、判断力が鈍ることもある。家族の心労も推し量ることが難しい。2次災害だけは避けなければならない」と内田知行災害対策本部長(肥後建設社代表取締役)は中止命令の理由を説明する。

九州北部豪雨は、22年前(1990年)の雨量をはるかに超え、広範囲にわたる甚大な被害をもたらした。濁流と化した川は民家を飲み込もうと土地を削り、阿蘇山の火山灰を含む大量の泥土が阿蘇市の中心を通る国道57号線に流れ込み、敷地内の施設を襲う寸前で止まっていた。流木も散在し、穏やかな日常生活が奪われた。

内田本部長は、「治山工事や砂防工事を進めてきた場所では22年前ほどの被害はなかったと思う。ただ、工事が進まなかった多くの個所で、人命も失われる甚大な被害をもたらしてしまった」と苦渋に満ちた表情を浮かべる。崩壊したインフラを目前に進める人命救助は、地域の安全・安心のためにインフラ整備を進めてきた地域建設企業にとって、これ以上ない苦しみの中での戦いだった。

市内の多くに流れ出た泥土を見ながら内田本部長は、「対策さえ実施すれば終わりではない。日々のインフラ管理がそれ以上に重要だと感じた」という。

阿蘇市を含む阿蘇山周辺の地域では、長い時間をかけて砂防堰堤に火山灰が堆積する。今回のような豪雨が発生すれば、堆積した火山灰が一気に流出し、被害を拡大させるという。熊本建協は22年前の豪雨被害を教訓に、県に対して堆積した火山灰を撤去するための予算措置を要望したが、認められなかった。

災害が発生すれば、自衛隊、警察、消防よりも早く最前線に立つのが建設企業だ。自治体も建設企業に頼っている。

それにもかかわらず、地域建設業を取り巻く環境は厳しい。公共事業が大幅に削減され、多くの企業が資機材、人員を削減してきた。公共工事の入札も厳しい価格競争を強いられ、赤字覚悟の受注が続いている若年入職者もわずかで、いわば衰退産業の一つと教えられてもおかしくない状況にある。大規模災害など、いざという時に人も機材もないという状況で本当に良いのか、考えるべき時にある。

「中山間地域では建設業が基幹産業となっている。作業員を雇用し、地域内で資材を調達するなど、経済を循環させている。われわれは何も裕福な生活を送りたいわけではない。高齢者が一人で安心して生活できるような社会基盤整備を通じて、豊かな生活を送りたいだけだ」と内田本部長は吐露する。

一方、要望ばかりではない。「われわれも反省する面は多い。工事一つひとつを丁寧に地域住民に説明し、理解を得ていく必要がある。仕事を通じて地域とつながっていくためにも、会員各社の意識改革が求められる」と前を向く。