2013/5/1(水)
新聞記事
平成25年4月30日 日本工業経済新聞


佐藤信秋参議院議員インタビュー
今こそ強くしなやかな国土に



長期間にわたり持続可能な国家機能・日本社会の構築を図るための国土強靭化に向けた取組みが本格的に進もうとする中、国土交通省の事務次官から国会議員へと転身し、「強くしなやかな国土」の実現に向げて、全国各地で精力的に活動を進める佐藤信萩・参議院議員に、今後の国土強靭化対策のポイントをうかがった。

建設産業の地位、所得向上を

――今国会へ提出する国土強靭化に関する基本法案のポイントはどこにあるのでしょうか

佐藤 目指すものの一つは国土の拠点の地方分散。例えば、日本海側の国土軸はまだまだ脆弱ですから、これを強くしようということか大きな命題の一つにある。二つ目に、道路の整備や防災対策といった公共投資、社会インフラの整備をしっかり行うということがベースにはあるが、エネルギーの脆弱性というものをどのように強くするのかが重要。また、大地震の時には必ず、使用できないといったケースが出てくる情報通信の確保も大切で、ハード整備だけでなく、ソフト対策も一緒に行うことが必要になる。私は『まちを強くする』と言っているが、これは建築物を特に強くしていこうということ。1981年(昭和56年)以前の耐震設計で造られたビルは残念ながら震度6強や震度7の地震には耐えられない。場合によっては倒壊してしまうので、そのようなことがないように致命傷を負わないという、まちづくりをしていく必要がある。公共の建築物では庁舎や学校の耐震化などは天幅に進んできたが、民間の建築物はどうかと考えると、まだまだ進んではいない。例えば民間建築物の耐震化を進めるような政策誘導ができるようになることが法案のポイントになる。構造物やビルを強く、しなやかにするととが国土強靭化の発想にあり、ビルが倒壊しない、橋が落ちない、そして被害を最小にして復旧・復興がすぐに出来るようにすることが基本。これを本当に急いで取り組まなりればならないと再認識させられたのが東日本大震災だった。個々の構造物を災害に強くしてきた歴史はあるが、まち全体、国土全体を強くするという発想には十分に立脚していなかった。これは政治も行政も反省しなげればならない。

――具体的な国土強靭化の進め方はどうなるのでしょうか。

佐藤 さらに重要なポイントになるのが国土強靭化を計画的に進めるために基本計画を作ること。抽象的に強くしようと言っているだけでは駄目で、(具体的な対策を)基本計画に潜乏し込んでいこうと考えている。まずは国民の皆様にはアウトプットとして国土強靭化基本計画というものをお示しして、判断をいただき、同じ方向性を持って進んでいることを理解しながら国民運動にしていきたい。

――未曾有の災害となった東日本大麗災が発生し、今後は首都直下型地震、南海トラフや3連動型地震の発生も懸念されます。

佐藤 三陸で大地震・大津波が発生したが、その前後20年の注意が必要。今回はその前がなかったが、後ろの20年間では首都圏も南海トラフの大地震もこれまでに起きている。記録にあるだけでも4回あるので、必ず来るであろう巨大地震に国民運動として、きっちりと備えていく必要がある。しかも覚悟を持って進めなければなちない。大地露ば今すぐ起きるかもしれないので、すぐに起きたとしても「ここまではやりました」「こういう考え方で進めてきました」ということを言えるような政治・行政を国民運動としてやっていきたいと思っている。

――昨年12月に発生した中央自動車道「笹子トンネル」の天井板崩落事故を受けて、全国的にインフラの老朽化対策の重要性が再認識されています。

佐藤 当然ながら防災、減災、老朽化対策も国土強靭化に含まれてくる。特に老朽化の問題で言えば、設計はしました、施工もしました、その次に続くのが40年や50年後の更新時期。地震が来ても本当に大丈夫かという点検を繰り返し、必要な補強をしていく、あるいは更新をしていくというサイクルをしっかりと持っていなければならない。国土交通大臣は「メンテナンス元年」と言っているが、まさにその通りだとの思いです。

――昨年度には大型補正予算が成立し、2013年度の当初予算でも公共事業費が増加しますが、担い手となる建設業者の疲弊が懸念されています。

佐藤 基本は建設産業で働く人がしっかりと仕事を行い、雇用と暮らしを確保するために、所得(賃金)、地位を上げていかなければならない。これまで本当に下がり過ぎたと思う。私の祖父は新潟の建具職人でしたが一家を養い、私も生まれた。今の技能労働者の賃金水準では、大変に心許ないだけでなく、どんどん下がっている。本来ならば働く人が誇りを持って、しっかりと生活できるだけの賃金と地位は最低限必要だと思う。まずは、そこを戻していきたい。それから建設関係の経営者は一家意識があるので心が温かい。だから働いている人の待遇を向上させたいと思っているけれども、仕事をして工夫をすれば利益が残るという構造でなければやる気にもつながらないでしょう。少なくとも公共工事の発注者には、良い仕事を継続的にやっていただくために建設産業を保護しなりればならない役割がある。発注者の責任として、そういう経営環境を用意しなければならない。過当競争の中でダンピング競争をするというのが続くのでは、建設産業全体が倒れてしまう。それに近いというのが今の状態ではないか。

――具体的な改善策として、どのようなことが考えられるのでしょうか。

佐藤 経営者にもこれから先の見通しを持ってもらわなければならない。これまで3年間で「コンクリートから人へ」ということで3割の公共投資が削られました。果たしてこれで産業として成り立っていけるのかとなった。リストラせざるを得ない、資機材を手放さざるを得ないという中で、建設産業の誇りと体力を持ってもらわなりればならない。そのためには、これから10年先、15年先を見通して、国土強靭化計画を示し、計画的に着実に社会インフラの整備を進めることを、一緒にやりましょう、頑張りましょうというメッセージを出さなければならない。それが法案の重要なポイントでもある。もちろん公共だけでなく民間の整備も着実に進めましょうというメッセージも出していきたい。

会討法抜本見直しが必要

――いざ災害が発生した場合には地域に根差した建設業者の果たす役割が非常に重要であり、特に近年、災害が頻発する新潟県ではそれが証明されました。

佐藤 地震、水害、津波、豪雪など、災害は地元に即して起きるもの。それに対して100km先から応援に行きましょうというのは難しい。まずは3km先、5km先の被災現場を復旧しなければならない。障害物を取り除かなければならない。これは、それぞれの地域に根差した建設業者がいるということが大前提となる。東日本大震災では、何とかこれがぎりぎり機能した。最初に機材を持って出ていくのが地元の建設業者で、この機動力というのが一番大事な部分だと思っている。地元の建設業者がいなければ、自衛隊や警察、消防の活動も満足にはできない。災害が起きてから、どうしようかと考えたのでは間に合わない。普段から建設業に従事し、地元に必要な機動力があってはじめて出来ること。それが今ではものすごく厳しい状況にあり、極めて脆弱になってきている。これ以上、地元の建設産業の力を弱めたら大変なことになると思っている。

――地元建設業の育成には適正な公共調達が震要。公共調達の適正化に向けた今後の方向性についてどのようにお考えですか。

佐藤 基本の思想としては積算をして、100円という予定価格を出した時、これが上限ですという構造自体がおかしい。実は平均なのです。私は会計法を抜本的に見直していかなければならないと思っている。標準が100円掛かるというものに対して、それ以上は駄目としてしまうからデフレ構造になる。では積算はどうなるという話になるが、100円での入札が(落札率)100%とすると、90円で済んだところと110円掛かるととろが半々です。それが100円以上は駄目となると下半分しか認めないということになるのて競争が厳しくなればデフレになるに決まっている。テレビや車のような出来上がった製品を賢うのとは違い、一つとはないものを買うために積算をし、標準的にはいくらかという価格を出している。100円掛かるものは本来100円というのが基本。出来上がったものを買うという会計法の世界とは本来合わないものです。

――最後に建設業者に対するメッセージをお顧いします。

佐藤 建設産業は日本の経済と雇用の1割を支える重要な基幹産業。特に地方においては災害対応一つをとっても、なくては成り立たない必須の産業です。この産業の規模も処遇も地位も上げていかなければならず、そのためにはきちんとした経営環境を整える必要がある。国として出来る最大限のことを要求し、実現に向けて努力していきます。



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