2013/6/10(月)
新聞記事
平成25年5月29日 建設ジャーナル


佐藤のぶあきインタビュー
国民生活守る産業を守れ!
(2/2)



丸山 それにしても建設産業の人材不足、高齢化も深刻です。

佐藤 これ以上建設産業を疲弊させるわけにはいきません。新たに参入することができない産業レベルになっています。何を直していけばいいのかを考えなければいけません。 公共工事は良い仕事をして苦労をすれば利益が残せるようにしなければいけないという問題と、建設産業で働く人たちが今の賃金レベルでやっていけるのかを考えなければいけません。工事の発注者からはその意識をもって考えてもらうことが必要です。災害対応産業として、社会のインフラを維持し、国民生活を守る産業として守らなければいけない、これがベースとしてあることが必要です。

それから見た時に、今設定している労務単価はまともな労務単価になっているのかです。なっていないでしょう、過小評価しているというのが、私が主張をしてきたことです。

それは、働いている時にひと月いくらと計上している、この計上の仕方がおかしいと、ずっと言い続けてきました。基本の部分がおかしいと。なぜならば、極端に単純化していえば12カ月働くというのが前提です。しかし、一ヶ月くらいは手待ちがあったりします。端境期も含めて手待ちが一カ月あったとすれば11カ月実稼働をして、12カ月分の年間保証をしています。12/11にしなければ正当な評価にならないだろうというがベースとしてあります。

もう一つが、法定福利費、労働三保険(雇用・健康・厚生)に入って下さいということであれば、なおのこと、賃金調査では入っている人、入っていない人がいて、混在した単価になっているわけです。ですから、きちっと入って下さいねというメッセージを出す単価にしなければいけません。 きちっと実態を反映した設計労務単価にしなければいけないわけですので、直して下さいとずっと言い続けてきたものが、今年度の単価ではようやく少し反映されて直ってきています。平均で15%ほど昨年よりも上がりました。

建設産業の多くは屋外労働で、かつ受注労働なんです。自分たちで生産して買って下さいという産業構造ではありません。一年間でどれだけ働き収入を得ることができるかがベースになければいけないわけで、12/11でも実態はもう少し多くなければと思います。引き続き実態を反映するようにしたいと思います。

丸山 今年度の公共工事設計労務単価を見ますと10年前のレベルに戻ったということで、まだまだ賃金評価は低いと感じますが。

佐藤 十分ではないと思っています。実態はもう少し上げなければいけないというのが実感です。

丸山 発注者の意識の話もありましたが、入札契約制度の改善も産業再生には重要ですし、平均的価格である予定価格を上回ることが認められていないことで、実勢価格は必ず下回ることも本来矛盾したことだと思いますが。

佐藤 入札競争の基本構造を、設計積算した価格をもって予定価格とし、それ以上認めないという基本的構造というのは直さなくてはいけないと考えています。一番大事な部分です。それは、法律をきちっとつくらないと、それぞれ個々の発注者がやろうとしても難しい部分です。

公共工事は、積算価格そのものが必ず正しいわけではないわけです。一品生産で条件等によって違うわけですので設計積算したものが本当に正しいということではなく平均的な価格であるということですから、それを是にしうるような発注体系にしなければいけないわけです。しかし、会計法や地方自治法があり難しいわけですので、法律改正も必要になってきます。 そこに至るまでに、平行作業として、単価を実態に反映するようにしていくことが必要です。政策的に法定福利に入っていない人がいないように労務単価を直させました。これからさらに直してもらいます。

設計積算したものを上限として上を認めないことは直していかなければいけませんが、少なくとも安ければいいということでは需要と供給のバランスのうえで、競争で赤字受注が恒常化する状況にあったということも事実です。それを止めなければいけません。止めようとすると、最低制限を上げるという活動が必要ですので、これは私が政治家になって三回引上げることができました。ダンピング受注が建設産業の疲弊を招いているわけですから、赤字ダンピング受注を止めなければいけないわけですが、これを止められるのは発注者だけです。

受注者に止めなさいといっても無理です。発注者は国、県、市町村と、一定の価格以下では品質も保証できない、産業も疲弊するということで、低入札調査基準を、最低制限と同じような使い方をするようにして、それを3回上げてもらいました。さらに上げないとまだまだ赤字体質は直らないわけです。

公契連モデルでいえば86%くらいになっていますが、これでも値引きを強制しているようなわけですからまだ上げていかなければと思います。

このままでは経済も回らない。経済を回し、建設産業も再生を図るには調査基準、最低制限価格を上げていかないと、最低制限にはりついて、14%値引いてもいいじゃないかとやっているわけですから、産業としては成り立っていかないのは明らかです。

100円の積算基準で95円くらいで仕事をしてもらわないと成り立ちませんよと7年前に言って、私自身としても目標としてきました。この6年間でどうなったかというと、今年度労務単価が15%上がったことで積算も4〜5円上がるでしょう。104円としますと86%の最低制限価格としては90%くらいのレベルになると思います。さらに最低制限価格をもう一段階2〜3%上げれば昨年の100円に対しては94〜95%くらいになるだろうと期待しています。目標としてきたことがだいたい実現をしてくるのかなと思います。

丸山 新潟県建設業協会青年部が新潟県土木部と三方良しの公共事業改革に取り組み、昨年度のモデル工事では大きな成果が出たということですが、どのようにお考えですか。

佐藤 大切なことだと思います。発注者、施工者の意識改革、無駄を省く手立てにもつながりますし、それが国民、住民にとってもプラスになるということです。 公共工事の入札執行の中では、無駄を省いて効果を上げていく余地はまだまだたくさんあると思っています。書類が重複してたくさんあるとか、なんといっても現場にはりついているのは生産している人、技術者、技能者の方々なわけですから、そういう人たちに対してどこまで指導・監督・検査をやるのかも考えていく必要があります。責任をもって受注者もやることで互いのやりとりを少なくしていければ、本当の意味での責任施工ということだと思っています。

発注者、受注者、利益を得る国民が良しとするためにやるべきことはまだまだたくさんあります。受注者も生産性の高い仕事で品質を確保していくために、そのためにこういうことをきちんとやりますと。発注者は過剰な指導・監督・検査をするのではなく、まかせるべきところはまかせる。30年前に責任施工を目指した原点にもう一度もどらなければと思います。発注者も受注者も公共工事の削減で人材を減らしてきていますので、考えるべきことは多いと思います。

丸山 信頼関係が重要ですね。

佐藤 互いに信頼し合える受注者、発注者になることが必要です。そういった中で国民にきちっと説明をしていけば国民の理解も得られるのではと思います。信頼関係をベースにすれば可能なことも多いと思います。

丸山 前年度補正、新年度予算とこれから発注量も多くなると思いますが、人材不足もありますので信頼関係を基本に実態に即した執行が求められます。

佐藤 補正予算の成立で申し上げたのは、2月に成立して3月から出来るわけではないので、手間は出来るだけ省いて執行をして下さいということも申し上げました。実効性を担保するために技術者不足、資材不足という状況には出来るだけ対応をして下さいと。そして、下がり過ぎた賃金は上げて下さいと、資材も安くなり過ぎているという問題と、生産そのものが縮小している問題があるわけで、それらを考えた対応をしていかないと、うまくいかないと思いますし、信頼関係も築けないと思います。

丸山 予定の時間もまいりましたが最後に皆さんに訴えたいことはありますか。

佐藤 賃金がこれだけ安いということでは人材が集まりませんし、離れていってしまいます。そして経営者は赤字経営が続く。これでは産業として成り立たつわけがないということです。3年間で3割公共工事を減らすということが行われ、見通しが持てない状況へと追い込んできた結果です。リストラをしなければいけない、機械も手放さざるを得ない。新しい投資もできない、人材への投資もできないという状況の中で、技能労働者不足は顕著になっています。災害対応能力といった面からいえば、日本の国土の中で空白地帯が出てきています。実態はそういうことです。だから、経済対策だから協力をというだけでは建設産業として人材も簡単には増やせないわけです。

実態を見ながらこれから対応をし、長い目で取り組んでいかなければならないと思います。

実際の発注では技術者の専任も緩和することや、必要に応じて弾力的な措置をやっていかなければいけないと現場を見ていると思います。注意深く見守りながら弾力的な対応をしていかなければいけませんので、発注者の皆さんの対応についてはぜひお願いをしたいと思います。

公共事業、インフラの整備、災害への対応、建設産業の疲弊からの再生、それには国民の皆さんからの理解が大事です。大災害でどれだけ建設産業の方々からご苦労いただいたか。不眠不休で対応をしていただいているわけです。そういった人たちがいなくなった時に、守れますかということをぜひご理解をいただきたい。守れないという結果が出てきた時には遅いわけです。 これからも課題解決に向けて頑張りますが、みんなで頑張ってやらなければならないと思いますのでよろしくお願いをしたいと思います。

丸山 ありがとうございました