2014/3/11(火)
新聞記事
日刊岩手建設工業新聞



参議院議員 佐藤信秋に聞く
復興への思い、建設産業への期待


東日本大震災から3年。県では今年を「本格復興推進年」と位置付け、安全な地域づくりや被災者の生活再建、なりわいの再生に向け、復旧・復興事業の加速化に期待を込める。一方、復興現場における各種課題は抜本的な解決に至らず現在に至っている。本紙では、国土交通行政や建設産業のエキスパートで参議院議員の佐藤信秋氏をはじめ、県建設業協会の向井田岳副会長、岩手大学地域防災研究センターの堺茂樹センター長ら各界有識者に、復興を取り巻く課題と今後の方向性について聞いた。

震災の教訓糧に「防災立国」
将来の見通し 当初予算を確実に確保

―佐藤議員は震災直後から何度も被災地に足を運ばれてきた。震災から3年を迎え、改めて思うことは。

復旧・復興が第一という思いの中での3年間だった。地震災害の第一報から大津波発生の知らせを受け、広域的な大災害という非常事態においては、国が前面に立ち全額を国費措置しなければ、地方の現場は身動きが取れなくなる危険性があると考えていた。

現行の法体系では、災害救助法、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法とも応分の地方負担が前提。一方、地方公共団体は財源も人員も限定的で、地方に負担を掛けては物事は進まない。当時の民主党政権から災害復旧、災害救助の地方負担ゼロという回答を引き出したのは11年10月。もっと早く実現できていればという思いは現在でも強く持っている。

―国が前面に立つという意味では、国の出先機関の重要性も再認識された。

住民や地方自治体に寄り添い、救援や各種支援を行うには、広域的な組織でなければならない。「くしの歯作戦」を展開した東北地方整備局をはじめ、国の組織は本当によくやってくれた。そして何より地元の建設企業の頑張りが大きい。自らも被災しながら、見事な初動体制を取ってくれたと思っている。

震災で得た教訓を骨組みに「強い絆、強いインフラ、強いふるさと、強いリーダーシップ、強い制度」の「五強」による「防災立国」の実現に向け、災害緊急事態基本法の制定を目指している。現在は品確法の改正を進めており、これが一段落した段階で、法制化に向けた取り組みに力を入れていく。

―長く国土交通行政に関わった技術者の一人としても、復興への思いは強いのでは。

高校2年生の時に新潟地震に遭遇した経験が、土木工学を志す原点。国土の足腰、ふるさとの足腰を強くしたいとの思いをずっと持っている。東北では三陸縦貫自動車道の2000年代初頭までの概成を目指したが、達成できなかった。もう少し早く完成できていたらという思いはある。

一方で、震災6日前に開通した釜石山田道路が「命の道」として力を発揮したのをはじめ、高台を通る道路に住民が避難した事例や、盛り土構造の仙台東部道路が津波を阻止した事例もある。過去のインフラ整備は決して無駄ではなかった。だからこそ足腰の強い強靱な国土づくりに向け、国土強靱化基本法を策定させていただけたと思っている。今後は実効性を高めるため、予算の裏付けを行った上での着実な計画立案が課題だ。

―予算の話題が出たが、来年度の国交省予算は増加の見通しだ。

公共事業費は13年ぶりの増加で、前年比2%の増となる。これまでが削られ過ぎであり、少しずつであるが当初予算を戻していく。補正予算には景気対策や、停滞していた事業を一気に進める役割もあるが「大型補正は組んだが来年度の見通しが立たない」という態度では計画を立てられず、計画も絵に描いた餅となる。一定のテンポで当初予算を確保することが大事だ。

さらに言えば、国の事業費削減は地方にも影響が及ぶことになる。国の公共事業費の中には地方への補助金や交付金も含まれるため、ここが削減されると地方の単独事業まで減らさざるを得ない。

―長期間に及ぶ公共事業費の削減で、地方の疲弊は著しい。

5年前の政権交代時には補正予算が年度途中で削られ、当初予算も2割減となった。それに伴い地方が単独事業までカットした結果が現在の姿。削りすぎた部分を徐々にだが着実に戻すというメッセージを打ち出し、国も地方も先の見通しを持てるようにすることが当初予算における重要な課題だ。

―復興事業の財政措置についても被災地は動向を注目している。

復興予算は当初の19兆円から、現在は25兆円に見直されているように、必要な部分にはしっかりと予算措置を講じていく。5カ年の集中復興期間後も必要な手当はしていくというメッセージを、国が明確に発信していくことが大切だと思う。

地元企業の努力で被害軽減
品確法改正 担い手育成の視点必要

―設計労務単価が2年連続で前年を上回ったが、大幅な改善が目指すものは。

全国平均で話をすれば、前回が15%、今回が7%の引き上げとなった。15%の内訳は、10%は端境期や冬期間など現場が動かない時期の基本給を保証する季節調整値、残り5%は法定福利費相当分だ。労働三保険の本人負担分は15%だが、調査の結果3分の1は未加入であることから、本人負担分を積み上げることで社会保険への加入を促していく。

被災3県については、資材価格や人件費なども高騰しているため、前回の見直しで全国平均に10%ほど上積みしている。また、過去の労務費調査の結果、労務単価は一時期より30%ほど下がっているので、今回政策的に7%アップを図った。私としては徐々に本来の姿に戻りつつあるだけだと考えている。

―適正に賃金が支払われる仕組みも必要。

建設業の重層構造の中で、現場で実際に働く人たちに改善した賃金がしっかり届くことが重要。発注者の側も目の前の工事だけが安くできあがれば良いというのではなく、中長期的な担い手の確保という視点をしっかりと持つ必要がある。

この考えを品確法の改正という形にして、中長期的な担い手の育成、労働環境の改善、適正な利益確保などの実現を目指した取り組みを進めている。品確法は議員立法なので、予算関連の審査が終わる4月以降、できるだけ早く参議院先議で取り組んでいきたい。

―地方自治法がある中、品確法の改正内容の地方への波及も大きな課題と思われる。

国よりも調査基準価格や最低制限価格のラインを引き上げている県がある一方、未だに安ければ良いという発注者がいることも事実だ。品確法には罰則がないが、実効性を担保するために、指針という形で国、地方公共団体、建設産業界が皆で議論し、徹底を図っていくという思想を組み込んでいる。

―復興需要の先に対する不安を感じている企業も多い。

緊急を要する事業、一定程度の時間を要する事業、長期的な計画の下に進めていく事業などの仕分けをして、「緊急性のABC」を付ける必要があると思っている。急ぐとはいっても採算性の低い仕事で企業の疲弊を招くような状態は避けるべきであるし、用地の問題などから、一定程度の時間を必要とする事業もあると思う。ここは私たちからもしっかりと主張し、業界と共に頑張れるよう努力していく。

―岩手の建設業界にメッセージを。

自ら被災した企業も多い中、復旧・復興に全力を尽くされていることに感謝申し上げる。「くしの歯作戦」などでも地元企業が道路啓開をし、堤防などの応急処置をした。これは地元に建設企業がいるからこそ可能であり、地元企業が努力したからこそ被害の軽減が図られたと思っている。

建設業の頑張りに対する国民からの理解も広がっており、復旧・復興に対する期待も大きい。復旧・復興の担い手は地元岩手の建設企業の皆さんだ。事業量が増え、人や資材も不足している中にあり、苦しい部分も多いとは思うが、ここを乗り越えて良い仕事をしてもらいたい。私たちも可能な限り経営環境や労働環境の改善に取り組んでいく。岩手からも多様な意見を寄せてほしい。