2014/5/29(木)
新聞記事
平成26年5月28日 建設通信新聞




品確法改正案成立で
発注者責務明確化
担い手育成、適正利潤の確保







品確法改正案が成立することで、公共工事の品質確保に向けた担い手の確保・育成と、そのための適正な利潤の確保が発注者の責務であることが明確に規定される。笹子トンネル天井板落下事故で表面化したインフラの老朽化対策や、大雪時の除雪といった地域維持に建設業の力が不可欠であることが明白になり、さらに南海トラフ巨大地震・首都直下地震を見据えた防災・減災対策や耐震化への取り組みも建設企業に求められる。その役割を果たす上でも、建設企業の適正な利潤の確保を発注者が配慮する点を法律で規定し、予定価格の適正な設定や適切な設計変更、柔軟な工期の設定、事業の特徴に応じた入札契約制度の活用などを実施することを発注者に求めている。

適正な利潤が求められる大きな要因は、建設業を将来にわたって支えていく若年者に入職してもらうためだ。2013年度には設計労務単価の2度の引き上げが実現したが、今回の法律改正で最新の設計労務単価を反映した予定価格の設定も発注者の責務になる。最 低制限価格や低入札調査基準価格の導入などによるダンピングの防止もその1つ。下がりすぎた賃金を適正な水準に戻していくことが、公共工事の品質確保だけでなく担い手確保・育成の重要な要素であることが、法改正のメッセージだ。

そのためのツールとして、多様な入札契約制度の導入が挙げられる。技術提案・交渉方式の導入で価格交渉を踏まえて予定価格を決める形ができれば、工事に必要とされる価格で契約が可能となり、懸案だった予定価格の上限拘束性に風穴を開けることになる。

予定価格の設定についても、品確法の理念に沿えば取引価格や施工の実態をより反映した設定が必要になる。国交省でも、実勢価格に幅があることを踏まえ、そこから予定価格を割り出す方法を模索中だ。また、小規模での発注が多く採算性の低かった維持管理に関する工事も、複数年契約や工区の一括受注などで安定的な受注につなげる。

今後は、法改正の理念を自治体にも波及させ、各発注者で具現化していくことになる。国が自治体や学識経験者、民間事業者などの意見を踏まえた、発注者共通の運用指針の策定が次のステップであり、発注者の責務を担保する上でも必要不可欠になる。

今後、年度内をめどに指針の策定作業を進めるとみられるが、それには問題意識を各発注者がどこまで認識できるかがカギだ。自治体の職員が減り、技術者も減少する中でどう対応していくかという課題に加え、地域の実情にあわせてどういった契約方式が適合するのか、各発注者がそれぞれで考えなければならない。それが運用指針に反映されることで、自治体などでの地域の実情に応じた発注方式の選択も円滑に実施されることになる。

それには、意見交換の中で情報を共有し自らの課題を明確にするのも1つの方法だ。実際、建築工事での不調が全国的に相次ぐ中で国交省が昨年末から各地方で開いた意見交換会では、「参加した自治体間で同様の問題を抱えているのが理解でき、どの点が課題で何に対応すべきか明確化された」(国交省幹部)という。こうした取り組みも、運用指針を作成する上で求められそうだ。